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高校化学Net参考書 ~化学基礎~
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酸化剤の強さ
無色のヨウ化カリウム水溶液に少量の塩素を通じると,赤褐色になります。これは,次のような反応によってヨウ素I2を生じているからです。
2I- → I2 + 2e-
Cl2 + 2e- → 2Cl-
(イオン反応式 2I- + Cl2 → I2 + 2Cl-)
(化学反応式 2KI + Cl2 → I2 + 2KCl)
このとき,生じたヨウ素I2は未反応のヨウ化カリウム水溶液に溶けてヨウ素ヨウ化カリウム水溶液(ヨウ素液)になっているので赤褐色を示します。
ただし,塩化カリウム水溶液にヨウ素を加えても次のような反応は起こりません。
2Cl- → Cl2 + 2e-
I2 + 2e- → 2I-
(イオン反応式 2Cl- + I2 → Cl2 + 2I-)
(化学反応式 2KCl + I2 → Cl2 + 2KI)
よって,ヨウ素よりも塩素の方が陰イオンになりやすいことがわかります。これは塩素の方が電子e-を奪う能力が高いということですから,ヨウ素よりも塩素の方が強い酸化剤だといえます。
ハロゲンでは,原子番号の小さい元素ほど酸化力が強いことがわかっています。フッ素F2が最も強く,塩素Cl2,臭素Br2,ヨウ素I2の順に酸化力は弱くなっていきます。
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還元剤の強さ
硝酸銀水溶液に銅片を入れると,銅のまわりに白灰色の物質が析出してきます。同時に,水溶液が青色になります。これは,次のような反応によって銀が析出し,銅が溶出しているからです。
Ag+ + e- → Ag
Cu → Cu2+ + 2e-
(イオン反応式 2Ag+ + Cu → 2Ag + Cu2+)
(化学反応式 2AgNO3 + Cu → 2Ag + Cu(NO3)2)
ただし,硫酸銅(Ⅱ)水溶液に銀片を加えても次のような反応は起こりません。
Cu2+ + 2e- → Cu
Ag → Ag+ + e-
(イオン反応式 Cu2+ + 2Ag → Cu + 2Ag+)
(化学反応式 CuSO4 + 2Ag → Cu + Ag2SO4)
よって,銀よりも銅の方が陽イオンになりやすいことがわかります。これは銅の方が電子e-を与える能力が高いということですから,銀よりも銅の方が強い還元剤だといえます。
金属のイオン化傾向とイオン化列
上記のように,金属は陽イオンになるときに電子e-を相手に与えるので,還元剤として働きます。このように,金属が電子e-を放出して陽イオンになろうとする性質を金属のイオン化傾向(または単にイオン化傾向)といいます。
銅と銀を比較すると,銅の方が陽イオンになりやすいことから,銅は銀よりもイオン化傾向が大きいということができます。
金属の組合せを変えながら実験すると,多くの金属について,イオン化傾向の大小関係を比較することができます。代表的な金属(と水素)についてイオン化傾向の大きいものから順に並べたものを金属のイオン化列(または単にイオン化列)といいます。
K | Ca | Na | Mg | Al | Zn | Fe | Ni | Sn | Pb | H2 | Cu | Hg | Ag | Pt | Au |
貸そう | か | な | ま | あ | あ | て | に | すん | な、 | ひ | ど | す | ぎる | 借 | 金 |
左にある金属ほどイオン化傾向が大きく,相手に電子e-を与えて陽イオンになろうとします。
右にある金属ほど陽イオンになりにくく,単体のままでいようとします。これは,右にある金属の陽イオンが電子e-を受け取って単体になりやすいということもできます。
亜鉛は希塩酸に溶けるけれども銅は溶けないということを中学生までに習っていると思いますが,これはイオン化傾向で説明できます。
希塩酸中には水素イオンH+が多く存在しています。ここに亜鉛を加えると,どちらが陽イオンとして存在しやすいのかという競争が起こります。イオン化傾向は水素よりも亜鉛の方が大きく,亜鉛の方が陽イオンとして存在しやすいので,次のような反応がおこります。
Zn → Zn2+ + 2e-
2H+ + 2e- → H2
(イオン反応式 Zn + 2H+ → Zn2+ + H2)
(化学反応式 Zn + 2HCl → ZnCl2 + H2)
一方,銅は水素よりもイオン化傾向が小さいので,水素との競争に負けて,陽イオンになることができません。
このように,イオン化列は問題を解く上で非常に重要になってきます。語呂合わせを利用しながら確実に覚えてください。
おまけ話
試験に出るとは考えにくいですが,もう少し詳しいイオン化列を紹介しておきます。
Li K Rb Ba Sr Ca Na Mg Al Mn Zn Cr Fe Cd Co Ni Sn Pb H2
Cu Hg Ag Pt Au
金属のイオン化列と反応性
一般に,イオン化傾向の大きい金属は,反応性が高くなります。
たとえば,イオン化傾向の大きいアルカリ金属元素の単体は,空気中でも速やかに酸化されて金属光沢を失います。また,常温の水と激しく反応して水素を発生します。
代表的な金属の反応性を,表にまとめます。水素H2は参考のために載せており,実際には反応しません。また,例外となるものは,表の下に付記しておきました。
表 空気中における反応
K | Ca | Na | Mg | Al | Zn | Fe | Ni | Sn | Pb | (H2) | Cu | Hg | Ag | Pt | Au |
乾燥空気中で すみやかに酸化 | 乾燥空気 中で徐々 に酸化 | 湿った空気中で徐々に酸化 | 酸化されない |
表 水との反応
K | Ca | Na | Mg | Al | Zn | Fe | Ni | Sn | Pb | (H2) | Cu | Hg | Ag | Pt | Au |
常温で水と反応 | 常温では反応しない | ||||||||||||||
熱水と反応 | 熱水とも反応しない | ||||||||||||||
高温の水蒸気と反応 | 高温の水蒸気とも反応しない |
表 酸との反応
K | Ca | Na | Mg | Al | Zn | Fe | Ni | Sn | Pb | (H2) | Cu | Hg | Ag | Pt | Au |
希塩酸や希硫酸などの 酸化力のない酸と反応 | 反応しない | ||||||||||||||
濃硝酸、希硝酸、熱濃硫酸などの酸化力のある酸と反応 | 反応しない | ||||||||||||||
王水と反応 |
例外1 アルミニウムAl,鉄Fe,ニッケルNiは,濃硝酸に加えても反応が進行しません。これは,金属を加えた瞬間に,ち密な酸化物の被膜をつくるという反応が起こり,それ以降は酸化被膜が内部を保護するためです。このような状態を不動態といいます。この反応は,希硝酸では起こりませんので,Al,Fe,Niは濃度の低い希硝酸には溶けて,濃度の高い濃硝酸には溶けないという変わった反応性を示します。
例外2 イオン化傾向だけを考えると,鉛Pbは希塩酸や希硫酸に溶けるはずです。しかし,鉛を希塩酸や希硫酸に加えても反応が進行しません。これは,鉛を加えた瞬間に,表面が難溶性の塩化鉛(Ⅱ)や硫酸鉛(Ⅱ)で覆われて内部を保護するためです。硝酸鉛(Ⅱ)は水に溶けるので,鉛は希硝酸や濃硝酸には溶けます。
おまけ話 ~トタンとブリキ~
トタンは鉄板を亜鉛メッキしたもので,ブリキは鉄板をスズメッキしたものです。どちらも鉄を保護する目的でメッキされたものですが,その理論は全く異なります。
まず,わかりやすいのがブリキです。鉄よりもイオン化傾向の小さい「スズ」で表面を覆うことで,錆びにくくなっているのです。ただし,スズメッキに傷がついて鉄が露出すると,優先的に鉄の腐食が進行してしまいます。
これを逆手に取ったのがトタンです。鉄よりもイオン化傾向の大きい「亜鉛」で表面を覆っているので,錆びやすくなっています。ただし,亜鉛メッキに傷がついて鉄が露出しても,亜鉛が優先的に溶けだすので,内部の鉄は錆びにくくなります。亜鉛が鉄の身代わりになっている状態です。
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